2019年7月27日 虐待の実態と対応
講師:汐見稔幸(東京大学名誉教授 白梅学園短期大学前学長)
今年度第1回目の講習は、汐見先生による[虐待の実態と対応]についての講義でした。
初めに虐待が何故増えているのかということについて、歴史的な背景を伺い、
そしてその後に、増えきている要因を伺いました。
また、後半では、虐待に対応する機関についての具体的な現状と
これからどうなっていくのかを学ぶことができました。
汐見先生の講義に出てくる統計の数字は、いつもながら驚きと納得の数字で、
このままでいくと、日本の子どもたちの未来はどうなっていくのかと不安にもなります。
少しでも虐待の被害がくい止められるよう願うばかりです。
人類の歴史を遡ってみると、30万年の歴史の中で、
見知らぬ人との対人関係が求められるようになったのは、現代になってからとのことです
(身近な例でいうと、満員電車の中での至近距離を保つことや、向かい合わせで長距離を移動する列車など)。
良く知らない人とコミュニケーションをするということは、今の時代になってから急に
複雑になったということでした。人と関わることの難しさから病む人が大勢でてしまっていることを知りました。
社交的で社会に順応性があることは良いことだと思っていましたが、
実はそれは人にとって、とてもストレスフルなことなのだと改めて知りました。
対人関係の情報処理の上手い下手が問われる現代、ストレスを抱える人が多くいて、
それと同時に虐待の件数が増加の一途をたどっていること、特に年齢的には若い世代の親による虐待の増加が
著しいということを知りました。確かに最近のニュースを振り返ると、本当にそうだと思わざるを得ません。
育てることができず、産んだばかりの子をゴミ箱に捨ててしまったり、
幼い子どもを置き去りにして遊びに出かけて何日も戻らなかったり、
痛ましいニュースが次々と思い出されます。
最近では、若い世代夫婦による虐待ばかりではなく、はたから見たら常識的に見える大人による
ひどい児童虐待事件もニュースになっています。それはキレやすい人の増加によるもので、
キレやすい人の人格形成についても、詳しくお話を伺いました。
コミュニケーションの語源であるコミューン、つまり「共感する」という意味から分かるように、
良好な人間関係を保つ人格を形成するには、人と共感することが大切です。
相手の気持ちを共感できればできるほど豊かな人格が作られるということがいえます。
それと相反する言葉、「支配」が人格の多くを占めていると暴力的になっていくということでした。
柔軟な心で他者と関わり、人に指図されることなく人生を選ぶことができる人は、
穏やかな人になるということになります。
また、善と悪の価値観についても同じようなことがあてはまるということでした。
物事を善か悪かの2極でしか判断できない人は、中間のあいまいな部分、許容範囲ともいう部分が狭く、
キレやすいのだというのです。心の中間世界を大きく持ち、ある程度のことは許容できることが
対人関係を良好に保つ基礎になるのでしょう。キレやすく虐待をしてしまう人を減らすために、
今後日本はどのような教育をしていけばよいのだろうかと、考えさせられました。
後半の講義では、児相の機能や警察との連携についての実状を伺いました。
一般の人は、児相の働きがどのようなものか、ほとんど認識ができていないと思うので、
まだまだ課題が多いと思います。自分に置き換えてみても、
もし近隣で虐待かどうか疑わしいことがあっても、すぐに児相や警察に通報できないと思いました。
虐待から子どもを守るためには、現状では数が足らず、今後児相を増やしていくということでしたが、
児相を正しく運営し機能させて欲しいと思います。そのためにも、私たちも児相についてもっとよく知り、
より身近なものとして理解していきたいと思いました。